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結び目

おわりに HORIGUCHI HITOMI 

 さて、『ひとみずむ4』を、読んでみてどうだったのか?
 どのストーリーも、途中からぐっと自己探求が深まっていくシーンに、思わず身を乗り出すような感じで読んだ。

 コーチとして、クライアントの結果を出すために、「相手の中に答えがある」を100%信じることは可能なのかと、コーチを始めた頃から考えていた。
 相手が行動できないときは、分からないことがあるから教えなくてはいけないのだろうか? とか、修正する意見も必要なのだろうか? などと、迷うことも少なくなかった。
 
 なぜなら、独立前から3年間、メンターの金井豊氏とメールのやり取りをさせていただき、「個人事業主」という初めての経験に、コーチ的な要素とコンサルタント的な要素を、メンターが担っていてくれたという体験があったからだ。私の知らなかったことを教えてくれた部分があり、私は独立し、軌道に乗せることができたからだ。

 しかし、あるとき思った。決定し行動したのは自分だから、「自分の中の答え」でここまで来た気もする、と。自分も気づいていなかった答えが引き出されたのだと。
「だって、あなたは行動力がある人だからでしょ」と、言われることもあった。
 でも、それだけじゃない。行動力というのは、止めることのできない強さで、内側から自分の答えが来ているから行動するのだ。やはり、相手の中の答えを引き出すことでいいのだ。

 『ひとみずむ1~3』の作品のそれぞれから、兆しを感じていた。
 『ひとみずむ3』の頃、過去から今までの自分を深く見つめるほど、相手の中にも答えを見つけた。
 そして、今回の『ひとみずむ4』で、「相手の中に答えがある」が確信になった。

 特に印象に残っているやり取りは、Solaさんの『ごめんなさい』だった。

 Solaさんは、1年以上セッションを継続中なので、『ひとみずむ』を書いて頂きたいと思った。
 ただ、セッションで言葉数が少ないSolaさんは、書くことに抵抗はないか? 聞いてみないと分からないと思った。

 そして、返信が来た。
「書きたくない理由が見つかりませんでした」とあった。ちょっと面白い理由の作り方だなぁと思った。Solaさんは、書くことに決まった。

 初稿が上がってくるまで、待っていた。
 まずは、5000字くらい「言葉」が並べられていた。待ってよかった。これならば、最後までSolaさんに書いて頂けそうだと思った。
 また、Solaさんの作品の中に、私とのセッションシーンがあまり登場していなかった。そんな私の存在感の薄い部分に、自分の役割を感じた。

 それから、Solaさんと話し合って、題名を『ごめんなさい』にすることが決まった。
 また、「ごめんなさい」は、どんなときに言うのだろうか? 言うとき、相手に対してどんな気持ちを持っているのだろうか? など、そもそもの定義を話し合った。
 少し定義が出てきたが、氷山のように、もっと下の方に、大きな何かがありそうに感じた。もう少し時間をかけてSolaさんから紡ぎだされる言葉を待つことにした。

 少し時間があいてから、4稿目の原稿が送られてきた。
 文字数は8500文字まで増えていた。

 どんな物語になっているのだろうか? いつも、原稿を開く瞬間が好きだ。

 Solaさんの最後の言葉を読んで、なぜか、しばらく涙が止まらなかった。
 音楽記号のフェルマータがついているようで、ずっと私の中で響き続けた。
 そして、今でも。 

 Solaさんの音色は、確かに深いところで流れていたのだ。
 その音色は、私が好きなドビュッシーの『夢』のようだった。

 問いかけたら、それぞれのペースで、きっと気づくことができる。
 そのために「待つ」のだ。
 「相手の中に答えがある」と、ただ信じることなのだろう。

 いつも『ひとみずむ』を創りながら、ありがたく学ばせてもらっている。
 これからも対話を通して、私の学びは、ずっと続いて行くだろう。
 『ひとみずむ』は、クライアントさんと私の探求の物語として、つながっている。




 『ひとみずむ4』の原稿を、『ひとみずむ1』を書いたNanaさんにメールした。
 まずは、私の書いた部分をすぐに読んでくれたようで、その日に返信をくれた。

 「人間の頑張っている姿って、感動を与えますね。読んでいて自分のことのように嬉しくて涙がこぼれそうになりました。堀口さん、いろいろありましたね。そして、これからもいろいろありますよね、きっと…。でも、幸せになりましょうね。幸せの輪を広げましょう! ところで、今度の日曜日ご飯でも行きませんか?」と。

 日曜の夜、Nanaさんのマンションのラウンジへ行った。
 そこは、Nanaさんが、90日コーチングを受けている最中に引っ越したところだ。
 ラウンジからは、東京湾にかかるレインボウブリッジと羽田空港の夜景が見える。

 セルフサービスでカプチーノを入れて、小さなラウンドテーブルの席に座った。
 早速、Nanaさんが話し始めた。
「ひとみずむ読んで、やっぱり振り返るのっていいなぁって思って、私もなんか書きたくなっちゃった。ところで、ひとみずむは、あれから何番までいったの?」
「次で、55番だよ」
「じゃあ、『ひとみずむ100』あたし書くから!」
「はっ?! ワンハンドレッドいっちゃう?」私は、また突拍子もないNanaさんの発言に体がよじれるようになって笑った。
「うん、100のころ、またコーチング受ける」と、Nanaさんは、自信満々な顔で言ったと思ったら、急に真剣な顔つきになった。
「いや、ちょっとこの先どうしようかって、やりたいことって何だろう? って最近考え始めちゃって、でも考えても出てこないの…」
「そうなんだ」
「うん。なんかねぇ。仕事もこのまま続けるのもどうしようかと。今までは、あまり考えなくてもやりたいことって、どんどんあったんだけどね、なんか最近動けなくなっている感じがして」
「そっか…。結構、一生懸命にやってきた人によくある悩みなのかもしれない。きっと、やろうと思っていたこと、全部やれてきたんだよ。私も、いろいろ達成して、次何やるんだろう? って悩んだことがあってね、そこから1年半くらいゆっくりしているんだけど、段々、本当にやりたいことが見えてきて、今は、この『ひとみずむ4』を本当に完成させたい形でリリースすることなの」
「へぇ~、なんか楽しそう! どうしたらそういう欲求に気づけるわけ?」
 そういえば、最近、久しぶりに会った、会社の同期だった友達も、同じようなことを言っていた。会社のために一生懸命やってきたけど、自分のためになっているのかと…。30代半ばに、多い悩みなのかもしれない。
「やりたいことって、自分の内側から湧いてくるような、自分だけのやりたいことのような感じがしているよ。ゆっくりして、自分に向き合う時間を作らないと見えてきにくいものだよ」
「へぇ~。ゆっくりかぁ。ゆっくりしてないなぁ。友達に、『自衛隊』って言われる。どんどん行動して体力的に苦しい方向へ行こうとするからだって。でも、仕事辞めてみようかなってちょっと思うときがある、もういいかなって。1年くらいとかならどうにかなるかな?とか…。前にはそういう考えなかったからね」
「あはは、自衛隊! 私は、止まると死んじゃう『サメ』って言われたことがあるよ」
私とNanaさんは一緒に笑った。
「でも、止まらないで色々やってきたおかげで、ゆっくりモードに入れたと思う。で、ゆっくりしていたら、急に作詞をしてみたいとか思って、『ああ、こういうのが、欲求の湧き方なんだ』って気づいたの。それと、クライアントさんが、『森の中の果実を探すよりも、足元にありました』って言っていて、私もそうだった! と学ばせてもらったこともあった。そしたら安心感がでてきて、焦って色々やるよりも、やりたいことを一つ一つ丁寧にやって、なんか面白いことが起きたら、なおいいなぁと思いながら」
「なるほどねぇ…。ゆっくりするのいいかもね。一度休んでみようかな…。あとで、電卓でもはじいて考えてみよう。んー、なんか大丈夫そうな気がしてきたぞ!」

 出雲大社へ一緒に行ったときには、私がゆっくりしている話をしても、あまりピンときていない様子だったNanaさんが、今回は興味を持っているように感じた。
 人にはタイミングがあるのだろう。相手が必要なときに、私は、さりげなく手助けが出来ればいいと思っている。



 それから、私たちは場所を移動して、行きつけの川沿いのレストランへ。
 二人ともお酒をあまり飲まないから、まずはホットウーロン茶をオーダーした。それから、前菜やピザが運ばれてきて、先ほどの話の続きをしていた。

 「この前、堀口さんのメルマガに書いてあった『自分を生き生きする場所へ連れて行ってあげましょう』というのを読んで、いいこと言うなぁ、本当にそうだわぁって思っちゃった」
「まずは、自分を満たすこと」
自分の中で、その言葉が去年よりフィットしているかどうかを確認してみたくて発言した。違和感はなかった。
「そうだよねぇ。今回の『ひとみずむ』何回も読ませていただきます!」



 食事が終わって、一息ついた頃、Nanaさんの書いた、『ひとみずむ1』を改めて読み直してみよう、ということになった。

 「わっ、あたし、こんなに言いきってる。『人は、変わることができる!!』って」
「わはは、ほんとだね、ものすごいキャッチコピーみたいの書いているよね、この辺なんて特に」
「あはは! あれねぇ、あたし1日で書いたの。指がタタタって勝手に動いた感じだったのよ、ほんと」
「いやぁ、あれはうますぎて、原稿を初めて読んで、泣いちゃったからね。それにしても、このひとみずむ1,2,3と続くんだぁ…っていう提案が一番驚きだったけどね」
「それも、指が動いちゃって」

 一緒に読みながら、Nanaさんのお母様のことが書いてあるくだりに入っていった。

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私は、母とは友達のように仲が良く、なんでも話せる友達同士のような関係でした。
長い間2人暮らしをしており、人に弱みを見せないタイプの私が、 唯一何でも話せたのが母だった気がします。 しかし、2年前に亡くなり、そんな心強い味方がいなくなりました。
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 少し間をおいて、Nanaさんが話し始めた。

 「今日ね、さっき思い出したんだけど、母の誕生日だったの」
「えーーー! それは、びっくり! 今日、本当は夜に予定があったんだけど、相手の方の都合で、午前に変更になって、Nanaさんと会えるようになったんだよね。不思議だなぁって思ってたの。呼ばれたのかな?」

 「お母さんありがとう!」と、Nanaさんは、天上を見上げて言った。
 そして、「あたし、今日から『ひとみずむ100』に向けてスタートするね」と宣言した。



 『ひとみずむ1』から紡ぎだされた糸が、また1の人に戻るとき、いつまでもほどけることのない結び目ができて、きれいな円ができるだろう。

 何かを一緒に創り上げたつながりを、これからの人生でも、もっと味わいたい。
 書いた人も手伝ってくれた人も、みんなで手をつないでみたいな。